青森の紅葉を巡る旅

山々や渓流を彩る感動の世界!
圧倒的なスケールで胸に迫る、錦秋の青森へ

青森の紅葉を巡る旅

「青森の紅葉を見に来ない?」

友人から届いた一通のメール。


青森県は、八甲田や蔦沼、奥入瀬渓流など、全国有数の紅葉スポット。

手つかずの雄大な自然が残されており、昼と夜の寒暖差により、葉が鮮やかに色づき、山々を美しく染め上げるのだといいます。


絶景に出会うため、紅葉の青森をめざします。

全長360メートルのアーチ橋「城ヶ倉大橋」から眺める大パノラマの紅葉

八甲田山は、単体の山ではなく、十和田八幡平国立公園の北部にある連峰の総称。主峰・大岳を中心に10余の山々で構成されているといいます。
友人の車に乗り、青森の紅葉を巡る旅は、十和田八幡平国立公園内にある人気の紅葉スポット・城ヶ倉大橋からスタート。橋の近くに設けられた駐車スペースに車を停め、まずは美しい橋と紅葉のコラボを楽しみます。城ヶ倉渓谷をまたいで断崖絶壁をつなぐ全長360メートルの橋は、上路式アーチ橋としては日本一の長さ。橋の上に立ち周囲を見渡すと、八甲田連峰や遠くに見える岩木山など360度の巨大パノラマが圧巻です。谷底までは122メートル。橋の下をのぞくと、はるか下に白い龍のように体をくねらせた一筋の渓流が見えます。川の水は強酸性のため、魚は生息していないのだとか。手つかずの自然美に抱かれて、森の朝の空気を胸いっぱいに吸い込みます。

「雲上の霊泉」酸ヶ湯温泉。
国道103号沿いに点在する地獄沼と睡蓮沼の紅葉を堪能

酸ヶ湯温泉は、300年以上の歴史を持つ山の温泉宿。160畳ほどの巨大なヒバ造りの混浴大浴場・千人風呂が有名です。硫黄の匂いが立ち込める周辺を散策していると、薬師神社と書かれた鳥居を見つけました。昔、けがをした鹿を追っていた左衛門四朗というマタギが、雪原に湧く不思議な温泉で鹿が傷を癒しているのを見つけたのが酸ヶ湯温泉の始まりとか。左衛門四朗が祠を造営し、鹿をまつったのが現在の神社だと言います。神社に参拝して今回の旅の無事を祈ります。

酸ヶ湯温泉の近くに、地獄沼があります。八甲田の爆裂火口跡に近くから湧き出る温泉水がたまったものだとか。周辺には、硫黄を含んだガスや温泉が噴出し、大地の鼓動を感じさせてくれます。もくもくと立ち込める湯気が、赤や黄色に色づいたブナやナラ、カエデ、ダケカンバを包み込み、地獄というより極楽浄土のような幻想的な光景です。

さらに国道103号を進むと、八甲田周遊ルートの頂点・標高1040メートルの笠松峠です。すぐ近くにあるのは睡蓮沼。スイレン科のエゾヒツジグサが自生していることからその名がつけられたのだとか。整備された歩道を歩いて約5分。一気に視界が開け、沼の向こうに美しく色づいた八甲田連峰の山々を眺望できます。

八甲田ロープウェーから眺める巨大パノラマに感動!

さて、今回の旅の楽しみのひとつが、八甲田の紅葉トレッキング。登山コースは、初級者から上級者向けにさまざまなルートがあるようですが、今回は、初級者~中級者向けのルートをセレクト。八甲田ロープウェーを使って山頂まで登り、約2時間半のトレッキングを楽しみながら酸ヶ湯温泉まで下ってくるルートです。八甲田ロープウェー山麓駅から山頂駅までは高低差650メートル。約10分間の空中散歩です。ロープウェーの窓からは、360度どの角度からも紅葉が楽しめます。山頂に近づくにつれ、真下に広がる紅葉が次々に表情を変えていきます。

ロープウェーを降りると、山頂は360度の大パノラマ!南には南八甲田連峰と十和田湖、北には下北半島から津軽海峡、遠くに見えるのは北海道でしょうか。言葉を忘れるほどの絶景です。
さて、ここから歩いて八甲田ゴードラインへ。途中で津軽三味線を演奏している男性に出会いました。三味線が好きで、ここで演奏したいと思って山を登って来たのだそうです。バチの動きに合わせ、三味線の音色が澄んだ秋の空に吸い込まれていきます。まもなく、長く白い季節を迎える八甲田。冬眠する動物たちがこの時期、たっぷりの栄養を蓄えるように、アオモリトドマツもブナも、その旋律にじっと耳を澄ませているような気がしました。


まるで天空の楽園!思わず歓声が響く下毛無岱の絶景

木道を歩いて行くと、高層湿原・毛無岱に差し掛かります。上毛無岱を進んでいくと、前方から「ワーッ」という歓声が聞こえてきました。近づいてみると、眼下には息をのむような絶景の下毛無岱。黄金色になびく草紅葉が地面を覆い、赤や黄、オレンジのモザイク模様のまわりを常緑のアオモリトドマツの林が囲んでいます。点在する池沼はうっすらと水をたたえ、見上げれば秋の空。文筆家で登山家でもある深田久弥が、『日本百名山』のなかで、毛無岱を「神のたくみを尽くした名園」と謳っただけに、一枚の絵のような光景が広がる天空の楽園です。
ここからさらに下って行くと、少しずつ紅葉の色が変化していきます。色づきの変化を体感しながら歩いて行くと、ようやく酸ヶ湯温泉に到着です。

銀色に輝く霜の大海原と、朝日に照らされた紅の山々

「どうしても見せたい光景がある」という友人に誘われ、夜明け前に宿を出発。萱野茶屋付近で車を停めて空を眺めると、山々の上空に星がまたたいています。空気が澄んでいるためか、紅葉した山々に星たちの輝きが降り注ぐようです。

東の空が紅に染まり、夜明けが近づいてきました。田代平付近から眺めると、目の前にそびえる雛岳に朝日があたり、山肌を赤く染めていきます。それと対照的に牧草地一体は白い霜で覆われモノクロの世界。風が吹くと霜がガラス細工のようにキラキラと輝きます。友人によると、放射冷却で冷え込む秋の早朝にしか見られない絶景なのだとか。陽が昇り気温が上がると消えてしまう、はかなくも美しい光と影の芸術。かの光の魔術師・レンブラントにも描けない大自然のアートです。

八甲田山

日本百名山の一つ。1585mの大岳を主峰として、高田大岳、井戸岳、赤倉岳、前嶽、田茂萢岳、小岳、硫黄岳、石倉岳、雛岳と10の山々を北八甲田、櫛ヶ峰をはじめ6峰の山々を南八甲田と呼び、それらの総称が八甲田連峰です。どれも四方にきれいに裾を開くようになっているため、川がたくさんあり、上流では美しい渓谷や滝がよく見られます。more

「蔦野鳥の森」にある「沼めぐりの小路」へ

気持ちの良い秋晴れの朝。この日は、十和田八幡平国立公園内にあるにある「蔦野鳥の森」を散策する予定です。世界自然遺産白神山地と並ぶほどの深いブナ林のなかには、「蔦七沼」と呼ばれる7つの沼があります。蔦沼・鏡沼・月沼・長沼・菅沼・ひょうたん沼・赤沼で構成される湖沼群です。少し離れた場所にある赤沼を除く6つの沼の周囲には約3キロメートルの「沼めぐりの小路」が整備されていて、ハイキングがてら気軽に紅葉を楽しむことができます。

蔦温泉の近くにある蔦温泉ビジターセンターに車を停め、遊歩道入口へ。小さな川沿いの散策路を歩くと、苔むしたブナや岩の緑に赤や黄の葉が映え美しいコントラストを見せています。蔦七沼最大の蔦沼に到着しました。湖畔のデッキから眺めると、沼を囲むブナをはじめ、色とりどりの木々が水鏡のような水面に映し出されています。雲の流れによって光が刻一刻と変化し、いつまでも眺めていても飽きることがありません。水の透明度が高く、ヒメマスやイワナが泳ぐ姿が見られることもあると言います。

ブナの木立から降り注ぐ黄金色の光のシャワーを浴びながら、森のなかをゆっくりと歩いて行きます。岩と岩の間を縫って流れる清流や水辺のシダ類の写真を撮っていると、遠くから野鳥の声が聞こえてきました。ここは、さまざまな野鳥が生息する野鳥保護区。オシドリ、カワセミ、アカショウビン、ヤマセミなどが生息している野鳥の宝庫です。

月沼に到着しました。立ち枯れの木が白く浮かび上がる様子は、幻想的で思わず息を呑むほどの美しさ。斜めに傾いた木には黄色い葉がからみつき、ブナに混じってカエデの赤やオレンジが彩りを添えています。

さらに進むと、長沼付近に東家が設けられていました。鮮やかに染まる落葉樹のなか、針葉樹のハイイヌガヤという低木が緑のアクセントに。日本海側を中心とする多雪地帯に生息し、枝がよくしなるため八甲田の豪雪にも耐えられるのだといいます。


ひょうたん沼にあった案内板によると、ひょうたん沼は、すでにスゲ類やヨシ、ヤマハンノキなどが茂り、沼から湿原に姿を変えようとしているのだといいます。近くには、ウロができて朽ちかけた木が佇んでいます。森はこうして長い年月をかけて姿を変えながら命をつないでいきます。

八甲田を満喫して十和田湖を眺めながら期待を高めて奥入瀬へ。

蔦沼

十和田八幡平国立公園内に、「蔦七沼」と呼ばれる沼が点在しています。蔦温泉裏手をスタート地点として、6つの沼を巡る1周2.9kmの「沼めぐりの小路」が整備されています。more

渓流美と紅葉の絶景に心震える「奥入瀬渓流」

奥入瀬渓流は、十和田湖畔・子ノ口から焼山までおよそ14キロメートル続く渓流。車道沿いには整備された遊歩道があります。手をのばせばすぐ手が届くところに美しい渓流や苔むした岩、滝などが点在しており、全国有数の紅葉スポットとして人気です。

日本庭園を思わせる風情と、天然の盆栽のような岩々

渓流沿いにはバス停も設けられているので、バスを利用しておめあての渓流スポットに移動できるのも便利です。下流側の石ヶ戸休憩所の駐車場に車を停めて歩いて行くと、3つの川が合流する、三乱の流れが見えてきました。紅葉のトンネルに包まれた渓流には大小の岩々が点在し、幾筋もの流れをつくり出しています。苔におおわれた岩の上にはヤマツツジやタニウツギ、コミネカエデなどが生えており、まるで天然の盆栽のよう。ここから上流には大きな支流がなく、渓流の水はほとんどが十和田湖から流れ出たものだそう。そのため、どんな大雨でも増水することがなく、こうした景観が保たれているのだそうです。しばらく行くと、2匹の秋田犬に出会いました。足元でカサコソと音をたてる落ち葉や、甘い匂いを放つカツラの木に興味津々の様子です。

石ヶ戸の瀬は、絹糸のように繊細な水の流れに紅葉が映え、さながら日本庭園のような優美な風情です。八甲田の山腹の道から眺める紅葉とはまた趣が異なり、手をのばせばすぐ届くところに広がる紅葉の美しさは格別です。

「奥入瀬のもうひとつの楽しみは、苔の観察だよ」と、友人。確かに、岩肌や倒木、ベンチなどいたるところが苔で覆われています。友人から手渡されたルーペで苔を観察すると、見たこともない不思議な造形とみずみずしい輝きに思わずため息が!奥入瀬渓流には、200種類以上の苔が生育しているといいます。「雨の日や、雨上がりは特にきれいだよ」と、友人。苔の織りなす小宇宙も奥入瀬渓流の魅力です。


苔の緑と紅葉の赤のコントラストが美しい秋の奥入瀬渓流を満喫しながら、次の滝へ向かいます。

渓流を染め上げる木々と変化に富んだ滝

渓流のなかで一番流れが激しいという、阿修羅の流れに到着しました。岩の間を流れ落ちる清流は白波としぶきをあげて流れていきます。
しばらく行くと、雲井の滝が見えてきました。高さ約20メートルの滝が3段に屈折しながら滝つぼに落下しています。周囲には幾重にも重なる木々が広がり、躍動感たっぷりです。

ここからバスに乗って銚子大滝へ移動。幅20メートル、高さ7メートルの銚子大滝は、奥入瀬屈指の景勝地です。まるで水のカーテンのような滝と紅葉が美しいコントラストを見せてくれます。かつて、十和田湖に魚が生息しなかった理由のひとつには、銚子大滝が門となって魚が遡上できなかったからで魚止めの滝とも呼ばれています。
四季折々に魅力たっぷりの奥入瀬渓流ですが、雪に閉ざされる前の限られた時期だけ出会える、燃えるような紅葉と渓流のコラボは心震える感動の連続です。

奥入瀬渓流

奥入瀬渓流はミシュラン・グリーンガイドで二つ星に選ばれた観光名所。約14km続く渓流は、どこを歩いても絶景の連続!バスや車でビュースポットを巡るのも良いですが、時間と体力が許せばぜひ歩いて散策を。自然で作られた緑のトンネルや遊歩道を散策すれば、澄みきった森の空気や、木漏れ日にきらめく水面、表情豊かな清流、葉や苔の可愛らしさなど、自然が織りなす美しさを余すことなく堪能できます。more 

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