2024 蔦沼・蔦七沼で紅葉狩り
広葉樹の森が豊富な青森県は、紅葉の名所が多くあります。そのなかでも八甲田にある蔦沼の紅葉は有名です。蔦沼の周辺には「蔦野鳥の森」があり、個性ある湖沼群「蔦七沼」を散策できる「沼めぐりの小径」があります。この記事では、蔦沼周辺の紅葉の楽しみ方をご紹介します。(2023年10月撮影)
早朝の蔦沼で感動の時間
八甲田山系に位置する湖沼群「蔦七沼」。その中でも、朝陽で沼を囲む山々が赤く色づく蔦沼には、毎年多くの観光客が訪れます。
2020年から始まった入場制限と協力金の導入により、観光客を受け入れる体制が整った蔦沼。早朝の蔦沼展望デッキへの入場には事前予約と協力金の支払いが必要です。
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早朝5時。すでに何人かの観光客が蔦野鳥の森休憩所に集まり、受付を待っていました。受付を経て、休憩所から遊歩道を歩いて蔦沼へ向かいます。森のなかには街灯が無いため、懐中電灯が必須です。朝方とはいえ、日が昇る前の真っ暗闇の森のなか。長く感じられる徒歩10分ほどの距離を歩き、ようやく蔦沼の展望デッキに到着します。展望デッキには霜が降りていました。滑るので歩くときには要注意です。
見上げると、満天の星空。これだけでも早起きしたかいがあった…と思わせてくれるような星空です。実は紅葉の蔦沼できれいな朝焼けを見るには天候がとても重要で、太陽を遮る雲がなく晴れていて、ある程度の湿度がある状態が最適とのこと。さらに水面の美しい反射を見るには無風である必要があります。八甲田の山々に囲まれた蔦の森は天候が変わりやすいですが、なるべく晴天が続いている時期を選ぶのがよさそうです。
展望デッキに到着してから日の出までのおよそ1時間は、待機時間です。夜が明けるにつれ、徐々に蔦沼を囲う森のかたちが見えてきます。静かな森に朝陽が差し込んでくるその瞬間を見るために、息をひそめて誰もがその時を待っています。
蔦沼は山に囲まれているので、いきなり沼に朝陽が差し込むわけではありません。最初に南八甲田の赤倉岳に陽が差し、そのあと徐々に蔦沼を囲む森も照らされていきます。
展望デッキから見える対岸の森に朝陽が差し込み、影になっていた部分が明るく照らされていく様子が観察できます。影の面積が小さくなっていき、森全体が明るくなるまで、ほんの20分ほど。大自然が魅せてくれるダイナミックな演出に、感嘆の声が聞こえてきました。
蔦沼を囲む森には、ブナやミズナラなどの広葉樹が広がっています。紅葉しても赤く色づくわけではないこの森が赤く染まる理由は、朝焼けが森を染めるため。朝焼け具合は、日によって異なり、真っ赤になる日もあれば、日に当たっているかな?くらいの日もあります。
朝焼けで赤く染まった蔦の森が水面に映る姿は、さまざまな気象条件が重なったときにしか見られない絶景です。風が止み、湖面を揺らす波がおさまったときだけ、美しい森が反転して映し出されます。
紅葉の時期の蔦沼は霜が降りるほどの冷え込みなので、防寒対策は万全にして向かいましょう。
皆さまのご協力が必要です!蔦沼周辺の渋滞対策・環境保全への取り組み
紅葉時期の蔦沼では、来訪者の集中による周辺道路の混雑や路上駐車の発生、自然環境への負荷などの課題を抱えています。十和田湖周辺交通渋滞対策協議会ではこれらの課題解決に向け、2020年から蔦沼展望デッキ入場の事前予約や、協力金の支払いなどのルールを設け、蔦沼周辺の自然環境を守るべく取り組んでいます。
これからの紅葉時期、八甲田や蔦沼周辺への紅葉狩りを計画するときには、周辺情報をきちんと把握し、交通の妨げとなるような迷惑駐車はしないようにしましょう。
皆さまのご理解・ご協力をお願いいたします。
蔦沼周辺における事前予約制及び協力金について、詳しくはこちらをご覧ください。
蔦の森を歩いて沼めぐり
蔦温泉を囲むブナの森には、「蔦七沼」と呼ばれる大小7つの沼があり、そのうち赤沼を除く6つの沼を巡る自然散策路が整備されています。散策路周辺の森は「蔦野鳥の森」と呼ばれ、野鳥の宝庫でもあるんです。今回は全長2.9㎞・約90分で6つの沼をめぐる「沼めぐりの小径」を歩きました。
蔦温泉から蔦沼に向かう入り口が「沼めぐり入口」となっています。ここがスタート地点で、蔦野鳥の森休憩所の目の前を通って森のなかへ。散策路に入るとトイレは無いため、散策前に蔦温泉駐車場にあるトイレを利用しておきましょう。
昼間に見る蔦沼は、早朝とはまた違った雰囲気です。秋晴れの青空にブナやミズナラの黄色が映えていました。
蔦沼から鏡沼、月沼、長沼と続く沼めぐりの散策道。蔦沼から鏡沼までは15分ほど歩きますが、アップダウンが激しく、上り階段が続きます。紅葉シーズンは観光客が多く、散策道には随所に目印の看板があるため、道に迷うことはなさそうです。鏡沼と月沼には、さらに高い位置にある長沼から水が流入しているそうですよ。
鏡沼から少し歩くと、すぐに月沼が見えてきます。周辺にはカエデなどの赤く色づく広葉樹がありました。蔦の森をめぐる水はとても透明度が高くきれいなため、湖底にはたくさんの落ち葉や倒木が沈んでいるのが見えます。水深が浅く倒木がはっきりと見えるのは、月沼ならではです。
月沼からさらに上りの道を進むと、進行方向の右手側にある木々の向こうに、美しいグリーンの長沼が見えてきます。長沼を見下ろすように散策道があるため、開けた場所からみる沼とは違った角度で長沼を眺められます。
東屋がある長沼の展望所からの景色です。長沼の水量は雨量や雪解け水によって大幅に変わるそうで、この日はとても水量が少なく、展望所側の湿地帯が干上がっていました。
沼めぐりの小径もいよいよ佳境。菅沼が見えてきました。長沼と同様奥に長い沼です。菅沼の周辺は歩いて散策でき、水辺に近寄ることができるので、別な角度からも眺めてみました。対岸の紅葉が水面に反射していて美しいです。
蔦の森の中では、枝の先まで見えないほどの背の高い広葉樹が落ち葉を降らせます。ふかふかな絨毯の上を歩いているようです。とてつもなく長い間、いくつもの季節を繰り返してきたことで今の森があること。森の営みを身体全身で感じられます。
菅沼から、最後のひょうたん沼に向かう道のりは下り道です。黄緑色から黄色へと鮮やかに色づいたブナの葉のグラデーションが楽しめます。
ひょうたん沼は、名前の通りひょうたんの形をした沼。沼の半分はスゲ類やヨシなどが茂っていて、沼というよりは湿原のようでした。
ひょうたん沼は蔦温泉旅館の建物のすぐ裏手にあり、建物の横から蔦温泉旅館前のバス停付近に出られます。これで沼めぐりの小径をぐるりと1周したことになります。
ちなみに蔦七沼の一つである赤沼は少し離れた場所にあります。沼めぐりの途中に赤沼行きの看板がありますが、登山同様に歩く道が険しく遠いため、きちんとした装備や体力がある中級者向けです。
蔦温泉旅館では、冬季を除いて日帰り入浴が可能です。蔦の森を散策したあと、秘湯と呼ばれる温泉に浸かって疲れを癒してから帰るのもおすすめです。
沼めぐりの小径を歩いて、蔦七沼のうちの6つを巡りました。一言で「蔦の森」と言っても沼ごとに紅葉の進み具合が違い、沼と沼をつなぐ小径の紅葉具合も場所によって異なります。蔦沼の紅葉に照準を合わせて行くも良し、野鳥が多い季節に行くも良し。もちろん紅葉以外の緑が美しい季節も、また違った表情の沼めぐりを楽しめますよ。