冬の下北半島で贅沢旅を体感。
大間のマグロにアンコウ料理。美食と名湯を満喫する本州最北旅
本州最北の下北半島を一人旅。
津軽海峡を右手に走る国道279線の道沿いにはこの地に住む人々の営みが垣間見えます。
水平線に北海道がある絶景。
この地はどこか異国に迷い込んだような雰囲気があります。
海の幸が豊富な温泉宿で、この季節にしか食べられない食材を現地で堪能するのが今回の目的。
冬の味覚と秘湯を味わいに旅立ちます。
3つの源泉と新しくできた公衆浴場
最初の目的地は、大間町の隣に位置する風間浦村の下風呂(しもふろ)温泉。下北半島最北にある3つの温泉郷の一つ。500年以上前の地図にはすでに湯元としての表記があり、当時から温泉地として知られていました。現在でも湯治場や秘湯として、全国から訪れる人も多く、温泉ファンの人気も集めています。
下風呂温泉郷の湯は硫黄泉。3つの系統に分けられた源泉があり、山あいから源泉を引く白濁の「大湯」と透明に近い「新湯」、海辺から沸き、足湯などに使われる「浜湯」となります。約10ある温泉郷内の旅館では、いずれかの湯を使った源泉掛け流しで温泉を提供しています。そして、2020年12月1日には日帰り温泉施設「下風呂温泉 海峡の湯」がオープンしました。
海峡の湯は、下風呂温泉郷の中心にあった共同浴場が50年以上経過し、老朽化してしまったことから開業に至りました。共同浴場と同じく「大湯」「新湯」のどちらも楽しめる温泉施設となっており、風間浦村の木である「青森ヒバ」をふんだんに使用した館内は、風呂桶や椅子などにも使うといったこだわりぶり。湯船からは津軽海峡の水平線が眺められるようにした大きなガラス戸やサウナ室、半露天風呂などを新設しました。また、2階には昭和の文豪が泊まった「長谷旅館」を再現した客室を展示。海峡の湯は長谷旅館跡地に建てられたことから、文豪と同じ目線で下風呂の景色を見ることができます。
すでに海峡の湯に通い始めている人もいるという地元住民らの声に耳を傾けてみると、一度の入浴で2つの湯に入ることはなく、どちらかの「推し湯」のみに入ることがおすすめとのこと。下風呂温泉の湯の特長は湯上がりにあり、2つ同時に入ってしまうとその効能がわからなくなってしまうから、というのが1つしか入らない理由。ついどちらの湯に入ってみたくなりますが、本当に贅沢な入浴方法は、1回だけでなく、2回目、3回目と機会を作り、交互に湯を楽しむことなのかもしれません。
アンコウのフルコースに舌鼓
下風呂温泉郷の魅力は、温泉だけではありません。料理もこだわりがあり、旅館ごとに腕によりをかけていることも魅力の一つです。特に冬季の料理と言えば、アンコウ。風間浦村を代表するアンコウは、軒先に捨てられるほど水揚げされた時代もあったと言われています。アンコウの水揚げ量が多い理由は、風間浦村の地形にあります。津軽海峡は陸から離れるとすぐに深い海峡となり、その近海から深海魚であるアンコウがよく漁獲されます。さらに全国的にも珍しい昔ながらの「空釣り」と呼ばれる網漁により、生きたままのアンコウが水揚げ可能。新鮮なまま刺身や寿司ネタにも提供できることから、今では東京の料亭などでも引き合いがあるそうです。
今回いただいたのは、下風呂温泉ホテル三浦屋の「鮟鱇のフルコース」。こちらでは寿司職人でもある料理長が握る「鮟鱇の握り」が最大の特長で、鮟鱇鍋やアンコウの刺し身、煮こごりなどのアンコウを贅沢に使った料理がずらりと並びます。「鮟鱇の握り」はアンコウの頬肉と背中の肉を昆布締めで処理し、アンコウの旨味が凝縮された贅沢そのもののような寿司でした。軍艦巻きはコラーゲンたっぷりのアンコウの皮と蒸した肝をポン酢で味付けしたもの。どれも生臭さがまったくなく、上品な口残りがあるのは、鮮度の良さがあるからと言えます。
そのほか、鮟鱇鍋にはアンコウの旨味がたっぷり滲み出たスープにアンコウの白身をホフホフとしながら食べることができ、新鮮な肝を使ったあん肝は口溶けに違いがあることがわかりました。産地ならではの新鮮なアンコウ料理を味わえるのは、現地に行くからこその贅沢なのだと改めて感じました。
下風呂温泉の魅力は湯と食だけでなく、懐かしさすら感じてしまう趣のある館内や女将のやさしさに触れられるようなアットホームな旅館などさまざま。情緒あふれる温泉街にもあります。昭和の名残がある街並みの中で、ひときわ目を引くのはアーチ橋です。これは昭和初期に建設が進められていましたが、戦争によって建設の計画が中止となった幻とも呼ばれる大間鉄道の鉄道橋。戦後も建設は進められることはありませんでしたが、2005年には「メモリアルロード」として整備されました。現在では駅ホーム跡地に足湯の施設があり、下風呂の街並みと海岸を一望できる場所として観光スポットとなっています。※足湯は冬季利用不可
下風呂温泉郷
下風呂温泉郷は、本州最北端下北半島の風間浦村にあります。目の前には津軽海峡が広がり、海の向こう側には北海道を望むことができます。夕方は海に沈む美しい夕日を、夜には漁船の漁火を眺めながら湯に浸かることができます。また、津軽海峡で水揚げされた新鮮な海の幸を味わえるとあり、食通の観光客に人気があります。more
鮟鱇料理
青森県は全国でもトップクラスの鮟鱇の水揚量を誇ります。その中でも、下北半島北部の風間浦村は、古くから豊富な魚介類の宝庫で、特にあんこうは風間浦独特の漁法により、鮮度抜群のあんこうを水揚げすることができます。more
下北半島メモ①:みそ貝焼き
ホタテの貝殻を器にして、鰹節、煮干しなどからとった出汁にみそを混ぜ、ホタテを中心とした海の幸をふんだんに入れて玉子でとじるのが下北エリアに伝わる「みそ貝焼き」。下北では昔からこのような食文化があり、津軽地方に伝わる「貝焼きみそ」とは違い、入れる具材が贅沢なのが特長です。ぐつぐつと煮立つ様子を見ながら待つのも一興で、磯の香りまで感じられるような、まさに五感で味わう郷土料理。
漁師だからこそ知る美味しく食べる大間のマグロ
大間といえば、正月に新聞やテレビをにぎやかす地名として定着しつつあります。ご存知「大間のマグロ」は、東京・築地市場の初セリで毎年高値を記録し、ニュースなどで話題を集めます。大間のマグロは何と言っても津軽海峡の早い海流で鍛えられた身のしまり。餌に恵まれた環境で育つため、脂のりも違います。そんなマグロを食べることができる店は大間でも多くありますが、今回お邪魔した店は漁師が営み、親子で初セリの高値記録を打ち立てた料理店「大間んぞく」です。
さっそくいただいた「まぐろ丼」はお椀に大トロ、中トロ、赤身が盛られ、マグロを贅沢に堪能できる丼ものです。大トロは口に入れると溶けてしまうような食感で、食べてしまうのがもったいないと感じてしまうほど。中トロも赤身も普段食べているマグロとの違いがわかるほど、マグロの味がしっかりとしていました。
こちらでは大間で水揚げされたマグロを食べられるだけでなく、漁師だからこそ知るマグロの創作料理も楽しめます。中でもマグロのから揚げは、絶品と評判が高くリピーターも多いとか。店の人に聞いてみると、生では食べることがない脂の多い部位を使っているとのことで、熱を加えることで脂が溶けて牛肉のようなジューシーさが出てくるといいます。唐揚げも評判どおりのジューシーさがあり、しつこさもなく次々と食べられてしまいました。
店の人によると、マグロは水揚げ直後が新鮮で美味しいという印象があるかもしれないが、実は2、3日たった方が熟成され、マグロ本来の味を楽しむことができるとのこと。マグロと向き合いその生態を熟知している漁師の店だからこそ、美味しさも見極めた提供方法があることを知りました。
下北半島メモ②:脇野沢のマダラ
津軽半島の南西に位置する脇野沢を代表する魚が「マダラ」です。脇野沢でマダラ漁が始まったのは1700年代と言われ、解禁する12月初旬には横一線に並んだ漁船が、合図の旗が振られると、各自の漁場をめざして一斉にスタートする光景が話題を呼びます。その味は「日本一」を謳い、食べられないところはありません。
旅の終わりにたどり着いた大間は風が予想以上に強く、体は冷え切ってしまい、長居することすらできませんでした。とはいえそれも含めて現地でしか体験できないことこそが、旅の醍醐味。青森・下北半島には知られていない体験が、まだまだあるような気がしています。
大間まぐろ
「大間まぐろ」は 、津軽海峡の荒波にもまれ引き締まった身と上質な脂が特徴のクロマグロ 「通称:本マグロ」のこと です。
ここ大間町で水揚げされたマグロは、甘い脂がたっぷりとのった上質な味わいで、「大間まぐろ」というブランドネームで絶賛されています。more