能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第23回)

能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第23回)

弘南鉄道大鰐線の駅全部行くスペシャル


私はまだ青森に居を構えていない頃から、中央弘前駅が大好きだった。中央弘前駅を通りかかると必ず写真を撮っていた。単にローカルな良い雰囲気のある駅だから、というだけでなく、駅舎の形、文字のデザイン、立地、中の空気感、全部私の中で駅オブ駅。「駅」というものが好きな私にとってトップオブ駅だったのである。

2015年の写真。スマホから見つかったいちばん古い写真はこれだった。 そんな中央弘前駅を擁する、弘南鉄道の大鰐線がもうすぐなくなってしまう。大ニュースである。泣いちゃうよ。

 せめてなくなる前に、中央弘前駅のみならず、すべての駅を抱きしめてあげたい。残念ながら私は駅よりも体が小さいので、駅を抱くことはできない。だから、全部の駅を利用してあげたい。大鰐線を体で覚えておくために……。


 当初私は時刻表とにらめっこして、きちんと電車に乗って行ったり来たりしながらすべての駅で降りる、という計画を考えた。

しかし、実行日は真夏で酷暑の日。暑いなか、駅でただただ待つ時間が長くなるのは無理だと早々に判断し、とにかくいろんな手段を使って全駅に足を踏み入れれば良い、ということに計画を変更した。順番は何でもいいから、とにかく1日で全駅を味わい尽くすのだ。なるべく電車にもちゃんと乗りつつ。


1駅目 大鰐駅


 今回のパートナーはやる気にあふれる陸奥桜氏。よろしくお願いします。

 

 まず早朝、JRで大鰐温泉駅に着いた我々である。JRの大鰐温泉駅と弘南鉄道の終点・大鰐駅はくっついていて実質同じ駅なのだが、ここに行ったことがある人はほとんど、温泉施設と産直がくっついた「鰐come」のある南口に降りるんじゃないだろうか。私もそうだった。北口があるなんて知らなかった。

これが北口である。 北口を出ると、強制的に謎の細い通路を歩かされることになる。どこに連れて行かれるのか。

「関係者用」っぽさあふれる通路(一般客用)。わくわくする。 通路は、意外と大きめの駅舎(?)へと続いていた。

がらーんとしてるけど建物は大きい。北側にも駅舎があったんだ。 この駅舎、いや駅舎なんだろうか、ほとんどガレージなんだけど、とても空洞で、とてもいい。

巨大な待合室です。車も自転車も入れます。バス停の風情もいい。

 ちなみに私は、弘南電鉄でよく使われている太っちょでぼってりしたレタリングの字が大好きである。ものすごくかわいい。適度に略したりもしていて、活字ではない、それだけで評価は爆上がりである。

こういうやつです。


 スタートの大鰐駅でずいぶん楽しんでしまった。このペースだと全駅回れないので電車に乗りましょう。

木造の三角屋根も今や貴重でかわいい。

 ちなみに今回は駅が主役なので電車そのものにはあまり触れませんが、車体自体も吊り革がりんごだったり、そもそも東急からお下がりで来ている電車なので「東急百貨店」の広告がそのままだったり、萌えポイントが多いです。

りんごと東急百貨店のコラボです。

 電車はゴトンゴトンかなり揺れながら、我々にとって2つめの駅へと向かう。まずはジャブとしてここに降りることにする。


2駅目 石川プール前駅

 文字通り、温水プールの最寄りとして作られた新しい駅。

駅舎は簡素。文字もぼってりしていない。そこは残念。

新しい看板のデザインはかわいいです。看板の向こうにあるのがプールです。 私たちは駅そのものを味わうだけでなく、降りた際にはなるべく何か最寄りの名所でも探そうと考えていた。しかし……

「暑すぎる」

「思ったより暑いですね……」

 ここは青森県とはいえ、日陰がないのは体にきつい。私たちは早々に、無理してたくさん歩き回るのはやめよう、と決めた。

清掃工場が近いためにゴミ収集車がひっきりなしにやってくる。とんぼがものすごく多い。そんななかを歩いて目指した唯一の名所はここである。

力士・外ヶ浜の碑。ものすごく立派。 街道沿いに、巨大な力士の碑があるのである。

 外ヶ浜(引退してからは千賀ノ浦親方)。このへんの出身だそうで、昭和初期に活躍し、最高位は前頭筆頭。

「知らん……」

 そうつぶやいたのは陸奥桜氏ではなく私である。

私は同行者に「陸奥桜」と四股名をつけるほど相撲マニアだと自覚しているし、青森好きだとも自覚しているけれど、この力士のことを何も知らなかった。相撲界的にも決して有名ではないと思う。なぜそんな力士の碑がここまで大きいのか。

……愚問である。石川プール前駅近辺の住民がとんでもなく相撲好きだからだろう。

廃線になる前に、「外ヶ浜の碑前」に駅名を改名することを期待しています。


3駅目 宿川原駅

 逆向きの電車に乗り、いきなり大鰐方向に戻ってから降りたのはこちら。しゅくがわら、と読みます。

こちらです。駅舎はさっきと同じ簡素タイプ。

 こちらの駅は、大鰐線の中でも乗降客数が最少だという(1日1桁らしい)。なので、ひときわ何もないだろうと、ある意味期待していた。

家はちょっとあるけど、ちょうど「何もない感じ」がする。 すぐそばに平川という大きな川が流れていて、堰がある。川の向こうには山が聳え、遠くから列車の音が聞こえる……と思うと、それは弘南鉄道ではなく、川の向こうを走るJRの音だった。

この山のふもとをJRが走ります。電車が来るとは思ってなかったので、撮り鉄な瞬間は逃してしまった(泣)。 ここ、景色はいちばんいいかもしれない。

 駅に戻って弘前行きの電車を待っていると、なんと、乗客が一人来た!

地元の方が登場。ちゃんと使われていた! 1日1ケタの利用者の1人だと思うと、その心強さに握手を求めたくなった。

 そして私たちは電車に乗り、一気に終点の中央弘前駅を目指した。なにしろ暑かったので、少し長く電車で涼みたかったのである。

電車はりんご畑の中を進みます。いいねえ。

4駅目 弘前中央駅

 私が何度も撮りつづけた駅・中央弘前。いまは巨大なこけしがホームに並んでいて、駅舎にもいろいろ展示があって、「りんご畑鉄道」という大きな宣伝文句も駅名の隣にくっついて、カオスである。が、私の好きな素朴さは決して失われていない。

巨大こけしに迎えられます。ぼってりした字で出口へといざなわれる。看板も色あせて。がんばれよお。

改札の柵、駅舎からホームへアプローチする広い階段。色あせ具合もひなびていて大好きよ。私はこういうところのイスの形とか屋根とか床とかの古さに萌えを見出します。 駅舎にある展示を見ていたら、かつて使っていた駅名のハンコの展示があった。

これはたまらん。使い古しぶりもいい!はんこは、いい! これ、グッズで販売してください! 使い所がなくてもいいから!

 ちなみに「西弘前」「城南」は、弘前学院大前駅・聖愛中高前駅の旧名です。

平べったい駅、ぼってりした字、ちょっと暗い雰囲気まで、大好き。

何度写真を撮っても撮りきれない。電車がなくなったとしてもこの駅はそのまんまの形で残してほしい。お願いです。


ここから、弘前市街地の駅については、時間短縮のために申し訳ないけど車を使って行くことにします。

車で移動していると、陸奥桜さんがたまたま赤帽の軽トラを見つけ、「私、赤帽の名前集めをしてるんです」と妙なことを言い出した。

「どういうこと?」

「赤帽ってそれぞれ名前があって、それを集めてるんです」

 よく分からないが、そういうことだそうなので、変わった赤帽の名前があったら私に教えてください。陸奥桜さんに伝えます。

 本題と全く関係ない話だけど、陸奥桜さんは時々妙なことを言い出すのでちゃんとメモしていこうと思います。


5駅目 弘高下駅

 弘前中央駅からそう遠くないところにある弘高下駅である。

美しい。と思いませんか? 赤帽コレクターではないが駅舎コレクターである私が、弘前中央駅並みに最高評価を付けたくなる小駅であります。この良さが分からないかい?

 シャープで頭でっかちな独特の形、やはりぼってりした字、そのうえそこに夜には一文字ずつランプが灯るさま、駅舎下の黒タイルの渋さ、広くて浅い階段でのぼるアプローチ。美しい!大好きな建物!!

私は弘高生だったら、絶対毎日この駅から通いたい。自転車で通える距離でも電車に乗りたい。

ホームが全体に雑な感じもたまらない。土手にはひまわりが。

地面のひび割れ。この歴史。

 ところで、今回駅をめぐりまくって気づいたのは、弘南鉄道の駅にある水飲み場がとてもかわいいということである。

ほら!どうですか!? 直線でありながら流線型でもあるデザイン、サイドの小石敷き詰め型のタイル、水色の縁取り。このデザインした人誰ですか。私だったら弘高下駅は、駅舎もホームも水飲み場も含めてまるごと毎年グッドデザイン賞である。


6駅目 弘前学院大前駅

 つづいて車で来たのは弘前学院大前駅なのですが……、近くまで来ても、駅が見つからない。線路はあるのだが、駅らしきものがないのである。どういうこと?とモヤモヤしながらうろうろしていて、ついに気づいた。

コープのアピールが大きすぎて気づかなかった……。

 駅は完全に生協に含まれてしまっていた。メインタイトル・コープ、サブタイトルが駅である。

 よく見れば「店内・待合室入口」と書いてあるじゃないか。駅の待合室がこの建物なのである。

 実際、中に入ってみると、どう考えても生協の一部である場所に、電車の時刻表がバーンと貼ってあるのであった。

生協のカート置き場が駅代わりです。駅よ……。

 完全に生協に吸い込まれちゃっていて、少々かわいそうである。なので、この駅の評価は難しい。弘高下駅が大好きだっただけに…!

 とはいえ、ホームのレトロ感は好みのまんまでした。

大鰐線、かつて快速が存在していたのでした。ひらがななのがかわいいですね。

7駅目 聖愛中高前駅


 隣の駅までさらに車で。

簡単バージョンの駅舎。うーん。 この駅舎と文字はいまいちのやつだ、と思っていたら、中を見てみてびっくりした。

絶対高校生が描いたやつだ! たまにある、中高の美術部が街の壁とか駅とかをデザインするというやつだ!こういうの、私けっこう好きなんですよ。高校生感がまる出しであるほど、健気で好き。

 これも、高校名がちょっとグラフィティっぽいけどワルっぽくはなく、ハートで徹底したかわいらしさも素朴でとてもいいよ。しかも、こういうことをやるなら、弘高下みたいな古い駅舎よりはこういう駅舎のほうが向いている。

 ところがこれ、よく見たら、別で描いたものを印刷して貼り付けたみたいなんだなあ。そこだけはちょっと残念かなあ。ねえ、直接描かせちゃおうよ!


 ホームから外を見ると、レンガの古めかしい建物が見える。

倉庫みたいな。なんだろう?「弘前生まれの陸奥桜さん、アレ知ってる?」

「知らないですね……。名所としては聞いたことないです」

近くまで行っても特になんの説明もなく、よく分からない。が、かなり古いのは確か。調べたところ、これはなんと1905年に編成された、陸軍「歩兵第52連隊」の米の倉庫であるらしい。市内の建設会社が所有しているとのこと。

こんな歴史のあるものが当たり前のようにしれっとそこにある、それが弘前の歴史の重さである。


ついでに、駅舎を撮った写真を見返していて、気づいた。

こんなこと、書いてあったんだ!見逃してた。

 聖愛中高前駅の駅舎内には「隠れりんご」があるんですってよ。ちゃんと探してみればよかった!

 聖愛中高前駅(旧・城南駅)。高校生が描いた(?)りんごも隠れてるし、軍のれんが倉庫もしれっと隠れてるし、底知れない駅である。


 というわけで、14駅中7駅を回って前半は終了。後半へ続く。



by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。著書に、『逃北』(文春文庫)、『結婚の奴』(平凡社)、アンソロジー小説集『鉄道小説』(交通新聞社)、『ショッピン・イン・アオモリ』(東奥日報社)など。

当ブログの連載から誕生した『デットエンドで宝探し~あんたは青森のいいところばかり見ている~』(hayaoki books)が大反響!発売中!


掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。

ページトップへ