野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その11② ブイヤベースな昼と夜(下)

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その11② ブイヤベースな昼と夜(下)

(前回:野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その11①」ブイヤベースな昼と夜(上))

午前8時、JR八戸線陸奥湊駅前の「八戸市魚菜小売市場」に到着した。あれは何年前のことだったろう。地元の人に勧められてここに来たことがある。パックに詰めた冷やし中華を売っていたから夏の盛りのころか。

お目当ては中の店々で売っている刺身や魚卵などを買って、別売りのご飯と味噌汁でオリジナルの朝食をこしらえることだった。市場の真ん中に置かれたテーブルを囲んで賑やかな時を過ごしたことを思い出す。

再訪してみると建物が新しくなり、「朝めし処 魚菜」という名の飲食スペースも格段に広くなっていた。鮮魚や加工品を商う15の店舗は午前3時から営業していて、魚菜も早朝6時には店を開ける。周辺の鮮魚店や仲卸も暗いうちから仕事を始める。

同行の2人はお盆を持ってそれぞれ好みのおかずを選び、食堂の窓口でご飯と味噌汁を受け取ってテーブルに着いた。どんな朝ご飯に仕立てたのだろう。私はホテルで軽い朝食を摂っていたので市場の中をうろついてみた。同行の2人の朝ご飯が済んだので市場を出た。


八戸ブイヤベースの店を予約しているが、まだ時間がある。こんな時は温泉に足が向く。青森県の温泉銭湯は朝早くからやっている。車で「長寿温泉」に向かった。

480円を払って湯殿に入る。手前がぬる湯、その向こうが熱湯、奥に「青森ひばの湯」がある。毎分600リットルも湧出するナトリウム塩化物泉がカランからもシャワーからも出てくる。全身で温泉を浴びる感覚だ。先客はみな高齢者。無言で湯に浸っている。私もただじっと湧き出る湯に身を任せていた。青森の年寄りはしあわせだ。


時計を見るとまだ余裕があるので、同行のSさんが「あそこに寄ってみましょう」と言った。「あそこ」というのは地元のミニスーパー「むつ食品」だった。「惣菜センター」を名乗っていて店頭で焼き鳥を売っている。店内には個包装の「チキンカツ」「グラタンフライ」「お好みフライ」といったほかでは見ない商品が並んでいた。そこで発見したのがパック入りの「八戸ジャジャ麺」。これまでの八戸通いの中で初めて目にする食べ物だ。

「特定の店のメニューだろう」と思って店の人に尋ねるでもなく買うでもなく、ただ写真を撮って通り過ぎた。ところが帰って調べてみると、これが謎多き食べ物だった。ネットで検索しても誕生物語にたどり着けない。というか情報が極めて限られている。ただ、いくつかの小学校のブログがヒットした。そして八戸市のHPの中に「学校給食レシピ」というページをみつけた。ご飯、麺類の筆頭が「じゃじゃ麺」だった。レシピを開くと「学校給食オリジナル」「昭和の時代も平成の時代も八戸市の『じゃじゃ麺』は人気メニューです」とある。つまり時期はわからないが、昭和の学校給食から生まれたものであり、ということは多くの八戸市民がこの麺料理を何度も口にしているはずだ。そしていまも子どもたちがよろこんで食べている。

大量調理に向くように肉味噌ではなくあんかけスタイル。盛岡じゃじゃ麺が平打ちのうどんのような麺なのに対し、こちらは中華麺だ。三重県津市の「津ぎょうざ」は学校給食がルーツだが、B-1グランプリを通じていまでは津市を代表するご当地グルメになった。八戸じゃじゃ麺もやりようによっては面白い展開になるかもしれない。


時間になったのでオーナーシェフの根市拓実さんが腕を振るうフレンチの店「Yui」に入った。ランチタイムなのでシェフはずっと厨房の中。女性が1人で店を仕切っている。「奥さん」と呼んでも否定されなかったので多分、奥さんだろう。その女性が「前菜です」と言って運んできた一皿に目を見張った。

上段左から「イカの腑のパテシュー」「十和田産蕪のムース」「自家菜園雪化粧南瓜とヤギ乳のチーズ朝日岳」「八戸産サゴシのエスカベッシュ」。

下段左から「自家製ベーコンのキッシュ」「白金豚のパテ」「さくら姫鶏のハム」「鱈とパプリカのテリーヌ」。

若いころから赤提灯の居酒屋を主戦場にしてきた私にとって、どれも初対面の料理だ。ナイフで半分に切って食べていく。前菜は8種類だが、どれも食材の合わせ技だし、調理法も違うから味は8×2とか8×3に展開する。8×4かもしれない。次々に絵本をめくって違う絵を見せられている気分だ。一つの料理の感想が浮かぶ前に、次の料理が舌を奪う。

メインのブイヤベースがテーブルに置かれた。カサゴ、ホッキガイ、白子、周利貝(ムール貝)、ミズダコ、ヤリイカ、黒ソイ。皿の一隅にオランデーヌソースが添えられている。スープの味が複雑過ぎて、私の語彙を超えている。

気が付くと店内のテーブルは満席になっていた。どれも若いカップルだ。平日のランチタイムなのに、この賑わい。小声の会話が笑顔に彩られている。


以上の3店はほかの店の定休日なども考慮してアトランダムに選んだが、残る13店のブイヤベースはどんな姿形をしてどんな味の景色を見せてくれているのだろうか。それを存分に味わえるのは八戸市民に与えられたご褒美だ。


参加各店の定休日、予約の要否、プライスなどはフェスタのHPやガイドブックなどで確認を。それでは3月末まで続く冬の味覚の祭典を楽しんで!



野瀬泰申(のせ・やすのぶ)

<略歴>

1951年、福岡県生まれ。食文化研究家。元日本経済新聞特任編集委員。著書に「天ぷらにソースをかけますか?」(ちくま文庫)、「食品サンプルの誕生」(同)、「文学ご馳走帖」(幻冬舎新書)など。


あわせて読みたい記事
野瀬泰申の「青森しあわせ紀行」シリーズ(①〜⑤)

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その9」シリーズ(①〜②)

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その10」シリーズ(①~③)

掲載されている内容は取材当時の情報です。メニュー、料金、営業日など変更になっている可能性がありますので、最新の情報は店舗等に直接お問合せください。

ページトップへ
告知

青森県内では大雪により公共交通機関等の運行に影響が生じています。詳しくはこちらをご覧ください。