約800年続く伝統行事「八戸えんぶり」の楽しみ方
青森の三大冬まつりのひとつである「八戸えんぶり」を知っていますか。豊年祈願のお祭りとして受け継がれる「八戸えんぶり」の楽しみ方をご紹介します。
春を告げるおまつり「八戸えんぶり」
「えんぶり」は青森県南部地方に広く伝わる郷土芸能で、豊年祈願のお祭りとして約800年以上前から受け継がれてきました。八戸市を中心に南部町、階上町、おいらせ町、五戸町にえんぶり組があり、演目を披露する催しが行われます。
八戸えんぶりは国の重要無形民俗文化財に指定されていて、例年2月17日~20日の4日間開催されます。長者山新羅神社への「奉納」から始まり、八戸市中心街で30組ほどのえんぶり組が一斉に舞を披露する「一斉摺り」、夕方から夜にかけて披露される「お庭えんぶり」「かがり火えんぶり」など、さまざまな催しを4日間で見ることができます。
「えんぶり」というのは、むかし地ならしに使った農具「えぶり」が訛ったもの。東北各地で広く行われてきた田植え踊りのなかでも、「えんぶり」は田植え前の「えぶりならし」の作業に焦点を当てて発達したものだそうです。
お庭えんぶりは、登録有形文化財に指定されているお屋敷「更上閣(こうじょうかく)」で開催されるえんぶりで、お庭を舞台にしてお座敷からえんぶりを観覧できます。お庭えんぶりは、かつて「旦那様」と呼ばれた大地主や裕福な商家がえんぶり組を自宅に招き、舞を楽しんだ様子を再現していて、ほかのえんぶりとは一味違った旦那様気分を味わえるんです。
更上閣は、JR本八戸駅から徒歩で15分ほど。中心街に向かって歩き、大通りから少し離れた一角にある更上閣は、明治30年(1897)頃から大正時代にかけて建築・改築された近代和風建築の邸宅です。塀で囲まれた敷地に踏み入ると、石畳の通路が奥のお屋敷へと続いています。
登録有形文化財「更上閣」からみるお庭えんぶりに感動
建物入口で受付をして、靴を脱いで更上閣の屋敷内へ入ります。お座敷には座布団が並べられていて番号が振られているので、事前に予約した席に着席します。席にはお庭えんぶりのパンフレットやお土産の紅白饅頭、カイロなどが配布されてあり、有形文化財であるお屋敷の雰囲気もあって、お庭えんぶりへの期待も高まります。
席に着くと間もなく、八戸の郷土料理せんべい汁とノンアルコールの甘酒が運ばれてきました。屋敷内とはいえ、お庭に面したお座敷は開け放たれているため、屋外とほぼ同様の寒さ。鶏ときのこの出汁が効いたせんべい汁のおかげで、内側から身体が温まりました。
屋敷内ではお庭えんぶりを見ながらつまめそうなお土産や日本酒の熱燗などが販売されていて、その場で購入できます。お庭えんぶり限定の特別セットメニューもあり、「大旦那様セット」「大奥様セット」など、旦那様気分を盛り上げてくれます。
司会の方による南部の昔話で南部弁に耳が慣れてきた頃、お囃子とともに一組目の「ながえんぶり」の組が入場してきます。いよいよお庭えんぶりの開演です。
えんぶりには、唄や仕草がゆったりとしたテンポで、古くからの舞である「ながえんぶり」と、動きがダイナミックで活発な「どうさいえんぶり」があり、えんぶり組によってどちらのえんぶりが継承されているのかが異なります。お庭えんぶりでは「ながえんぶり」「どうさいえんぶり」の2つのえんぶりを続けて観ることができるようにプログラムされているので、演目の内容や摺り方、身に着ける小道具など細かな違いを見比べることができますよ。
えんぶりでは、馬の頭をかたどったといわれる烏帽子を被っている人たちを太夫(たゆう)といい、この太夫が舞うことを「摺る」といいます。「摺り」は農作業の流れを表現していて、苗代に種を蒔く「摺り始め」から、田植えをする「中の摺り」、田植え後に田んぼをならす「摺り納め」まで、いくつかの演目があります。その合間に子どもたちによる祝福芸として「えんこえんこ」「松の舞」「えびす舞」などが披露されます。
お庭えんぶりでは、摺りや舞の合間に司会による解説が入るため、これらの摺りや舞の表現に対し理解が深まります。休憩を挟み、二組目の「どうさいえんぶり」の組が登場する頃にはすっかりと日が暮れ、お座敷から見える景色の印象も変化しました。
祝福芸を担当する子どもは2歳~中高生まで年齢層が幅広く、同じ祝福芸でもえんぶり組によって少しずつ表現や衣装などが違うのも魅力のひとつ。子どもたちが一生懸命に祝福芸を舞う様子に、見ていて心が温かくなりました。2つのえんぶり組による舞の終了後には、えんぶり組との記念撮影ができる撮影タイムもあり、お庭えんぶりならではのサービスです。
豊年を祈願するとされるえんぶり。お庭えんぶりを観覧すると、神楽のような神聖さもありながら、食べ物に困らないようにと農民たちの切なる願いが込められている郷土芸能であることが伝わってきました。初めてえんぶりを見る方には、えんぶりの由来や意味を知ることができる「お庭えんぶり」をぜひおすすめします。
【基本情報】
開催期間:2月17日~20日の4日間(1日2回公演17:00~、19:15~)
観覧料:3,000~3,500円(お土産付き) ※チケット前売制
※お庭えんぶりを観覧するには、事前に予約が必要です。前売チケットは全国のローソンまたはミニストップのLoppiで購入できます。
(2024年は終了しています。2025年の予約受け付け開始日は未定です。お問い合わせはこちら)
屋外ステージで楽しめる「かがり火えんぶり」
更上閣から歩いて10分ほどの八戸市庁前広場では、八戸えんぶり期間中、特設ステージを設置して「かがり火えんぶり」を開催しています。「かがり火えんぶり」は予約不要で見ることができる夜のえんぶりです。
ステージの周囲には飲食店のブースが並び、多くの観光客が訪れることから、八戸の冬の風物詩として市民に浸透していることが伺えます。えんぶりと共に、地元グルメの屋台も楽しめますよ。
春を告げる八戸えんぶり。今回はお庭えんぶりの楽しみ方をメインにご紹介しました。2月の八戸市は冷えますが、寒さを吹き飛ばすような熱狂がえんぶりにはあります。
4日間に渡って行われるえんぶりは、観覧するタイミングや場所、団体によってそれぞれ違った良さがあるので、ぜひさまざまなえんぶりを見てまわってくださいね。